一通りの案内が済むと、1階のリビングスペースに戻ってきました。

「あの・・・っ、ありがとうございました!昨日も・・・」

お礼の言葉には反応もせず、ドラえもんさんは奥のソファにいるノビタさんのところに行ってしまいました。
あの人たち、仲よしさんなんだ。2人とも、わたしが管理人をやることに不満そうなことも、何か関係があるのかなあ・・・

ちょんちょん、と肩をつつかれて、わたしは振り向きました。
神秘的な雰囲気の人と、満面の笑顔の男の子。さっきスネオさんが紹介してくれたうちの、メッドさんとリーニョ君です。

「なあに?」
「今日の夕食は、シズカの歓迎会を兼ねて私たちが作る」
「うん!だからそのへんでてきとーにやすんでて!じゅんびできたらおもてなすから!」
「えぇっ!?そんな、いいですよ、ちゃんと今日からお仕事します」
「でももう仕込みは終わって後は仕上げだけなので」
「え?じゃあ・・・何か他にお手伝いできることはありませんか?」
「いいんだ!なんのケーキがでるかはないしょにしてびっくりさせるからキッチンにしずかいれたらダメなんだよ!ていうかみんなりゆうつけてワンのりょうりくいたいだけだからきにしないで!」
「リーニョ、それ内緒になってない。あと、ワンの料理のくだりは要らない」

本当はおもてなしされるような立場ではないんだけれど・・・せっかく歓迎してくれてるんだし。
お言葉に甘えちゃおうかな。

「えと・・・じゃあ楽しみに待ってることにします」
「うん!ボクたちおてつだいもどるけど、ぜったいのぞいちゃだめだよ!」

そう言って2人は戻っていきました。
そんなにお料理上手な人がいるのか・・・自分の腕に自信なくすほどだったらどうしよう。
キッチンに入れてもらえないので、手持ちぶさたになってしまいました。一旦部屋に戻ろうとした時です。

「本当に管理人やるつもりなの?」

奥のソファから、寮長のノビタさんが言いました。
そういえば、今このリビングスペースにいるのは、ノビタさんとドラえもんさん、そしてわたしの3人だけでした。
ノビタさんの尋ね方にはさっきのようなトゲトゲしさはなく、単純に心配だという響きがあるように思えました。
寮生さんたちにも慕われているようだし、やっぱりさっきのは『寮を管理する』という立場的な視点からくる意見だったのかもしれません。
読んでいた本から顔を上げてこちらを見ていたノビタさんに、笑顔で答えました。

「はいっあの・・・、わたし、がんばります!」
「どうして?」
「・・・ちょっと話せないんですけど、こみいった事情があって・・・」
「そうじゃない。どうして君が、ここで『がんばって』管理人やらなきゃいけないの」

ノビタさんは、メガネの奥の感情の読めない瞳でわたしを見つめながらいいました。
彼の質問の意図がよくわからなかったけれど、ちょっと考えてから探り探り答えました。

「理事長さんへの、ご恩返しです。とても困っていたところを、助けてもらったから」

するとノビタさんは微かに皮肉めいた笑みを口元に浮かべました。

「・・・あやとりって知ってる?」
「・・・・・・はい」
「あれっていずれは手詰まりになる遊びではあるけど、本来数学的に考えたら無限に続けられるはずなんだ」
「・・・すいません意味がわかりません」
「どんなに複雑に絡まっているように見えても、誰かのたった一手が問題だったりするってことだよ」

・・・なにが言いたいんだろう・・・
なんと答えればいいのかわからずにいると、それまで無言だったドラえもんさんが口を開きました。

「無駄だよノビタくん、彼女にはまだ判断材料が少ないんだから」
「・・・とにかく、理事長を信用しすぎない方がいい」
「なんですかそれ・・・あの方は、すごく親切な方です。それにわたし、誰かが嫌いだって理由だけでヒトを判断しませんっ」
「いい心がけだね。でも客観的な情報も色んな角度から手に入れるべきだ」

ノビタさんはそう言いながらまた読書に戻ったのでした。



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