その人は、足元だけを見て一段抜かしで上がっていたタケシくんがぶつかりそうになったのを、そのきれいな手で軽々と抱き上げました。

「あーっドラえもん!」
「タケシ、前を見て歩くよう、いつも言ってるだろう」

あれ・・・この、声・・・それに、この甘い香り・・・!

「どこ行ってたんだい?みんなで新しい管理人さんお迎えしようって下に集まってたのに」
「あーっ!このニオイ・・・またひとりだけでどらやき食べてたな!」

それ!ドラ焼きのにおいだ!じゃない!この人・・・!!

「・・・結局・・・やることになったんだ」
「え?」

ドラえもんさんは、すごくすごくきれいな人でした。
すごくすごくきれいで、でもどこか冷たい表情のまま、ぼそっとつぶやきました。

「どう考えたって女子高生じゃ勤まらないだろうに・・・推察力がないんだな」
「は・・・?」
「ドラえもん!あんまり失礼なこと言うなよ!」
「そうだよ!ノビタもこないだゆってたじゃんか!ドラえもんはもっと他人との接し方を考えろって!」

2人があわてたように怒っているのを、そのきれいな人は表情も変えずに見て言いました。

「それはそうと君たち今日それぞれ用事があるんじゃなかった?」
「あ・・・」
「スネオは2時から大使館、タケシも午後はリハーサルがあるって言ってたよね。今1時過ぎだけど」
「ああーーー!」
「どうしよう、まだ説明が・・・そうだ!ドラえもん、あと案内お願い!」

ええ!?この人!?なんかわたしに怒ってるみたいなのに・・・!?
とはいえ、2人とも大慌てでその場を去ってしまいました。・・・というか、大使館とかリハーサルって・・・

「説明はどこから?」
「え・・・あ、1階と2階の部屋は一通り・・・」
「3階はこっちがワンとニコフの部屋、そっちがキッドとエルマタの部屋、奥が僕とノビタくんの部屋でつきあたりがバルコニーだ」
「ちょ・・・ちょっとまっキャア!」

事務的にさっさと説明を続けながら歩いていってしまうので、慌てて追いかけようとして・・・転んでしまいました。
よりにもよって!この人の前でぇぇええええ


***
スネオとタケシが飛び出して行き、その場に例の女の子・・・シズカが残った。
まったく・・・あの理事長ときたら、昨日はあの後、部下総動員で、各種手続きに加えて管理人室まで改造させるなんて。
いったいこのコのどこに、それだけの価値があるっていうんだろう。
なんにせよ、『お願い』をされてしまった以上、僕は彼女を『案内』してやらねばならない。
さっさと終わらせてしまおうと、歩きながら説明をした時だった。

「キャア!」

彼女が転んだ。運動能力と反射神経も鈍いらしい。
立ち上がるまで待とうとしたが、さっきのタケシの言葉がふいに思い出された。

 『ノビタもこないだゆってたじゃんか!ドラえもんはもっと他人との接し方を考えろって!』

・・・確かに何度か言われていた。僕はソフトウェアの部分にまだ改良の余地があるらしい。
これまでの記録データから計算をして、『相応の対応』を行うことにした。

コミュニケーション対象設定:若年齢層
一次インターフェイス:フレンドリーモード
音声デバイス:ソフトモード

・・・彼女に手を差し出しながら、最上級の笑顔を添えて、温和な発声で言った。

「ここは滑りやすいから、気をつけて」

その後の彼女は、体温の上昇や極度の緊張症状が現れしばらく落ち着きなく振舞っていたが、風邪でもひいたのだろうか。
***



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