ショートショート


学生の頃、星新一先生のショートショートが好きで、好きすぎて、自分でも書いてたそんな厨2病記録。
さいしょの旅立ち  その右手の人差し指  ある報告  嫉妬  整形  青い玉


さいしょの旅立ち

「では、ここで別れることとしよう」
緑深い森の中に、三つの影が立っている。一つの影がもう一方に訊ねた。
「本当にいいのかい? 君たちはここを離れたら最後、もう二度と私たちの中へ戻ることは出来なくなるのだよ」
「予言者の君に逆らいたくはないけれど、もう決めたことだ。
 外の世界に何かがあるなら、誰かがそれを見てこなければ。
 それに、悪いことばかりでもないと、君も言ってくれたろう?
 君たちはここで、僕らは新しい世界へ行こう」

別の影が、しびれを切らしたという風に二人に話しかけた。
「ねえ、早く行きましょう」
「ああ、分かってる。それじゃ、またいつか」
そう言って、お互いに寄り添うようにその場を離れて行く。
後に残された予言者は、ひとり寂しげに彼らを見送りながら、小さく呟いた。
「この楽園にとどまっていれば良いものを。この森を出た彼らは、彼らの子孫が呼ぶところの『進化』を始め、
 世界の全てを壊し始めるおそるべき存在になるというのに・・・」

深いため息を吐き、チンパンジーの予言者は、未来のアダムとイブを見ていた。



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その右手の人差し指

右手の人差し指が落ちていた。

さあ困った、どうしたもんだろう。拾ったものは交番へ、というけれど、
その交番での勤めを終えて帰宅途中である警官の私にだって、こんなもの、どうしてよいのかわからない。
とりあえず放っておけなかったので、私はそれをハンカチでくるんで上着のポケットにしまい、そのまま帰宅した。

家へ帰って着替えをしてから居間へ行くと、妻が缶ビールを持ってきた。
「あら何それ」
「さっき道で拾ったんだ。誰かの右手の人差し指の落し物らしい」
「まぁ大変。それじゃその人、どうやって缶ビール飲むのかしら」
何の気はなしにその右手の人差し指でプルタブに触れてみると、
それは勝手に動いて、いとも簡単に開けてしまった。

次の日、非番だった私は、人差し指を連れて散歩に出かけた。
昨夜気がついたのだが、どうもこれは人体から刃物などで切断されたものではないようで、
切り口は血のひとつなく、まるで作り物みたいだった。
とにかくこれはよくわからない。
私は、生物学の教師をしている友人に尋ねてみようと思い、電話ボックスに入った。
電話帳をめくると、ポケットに入れていた人差し指が動き出した。
試しに友人の名前をつぶやいてみると、もぞもぞと頁の上を動き回り、
やがて見つけ出した彼の名前と番号をなぞると、電話機の方へ移動した。
私が受話器を上げ、コインを投入すると、それは慣れた手つきでさっきの番号を押した。

「主人は、夕方まで帰宅いたしませんの」
奥方がそう答えたので、私は夕方まで街を歩き回り時間を潰した。
喉が渇いた時は、その人差し指で自動販売機のボタンを押した。
というより、その右手の人差し指は、実にかいがいしく動き回り、たいていのことをやってくれるのだった。

帰宅した頃を見計らって、友人宅を訪れた。
彼は、不思議そうな面持ちで、慎重にその右手の人差し指を調べて言った。
「考えられないことだが、確かにこれは誰かの右手の人差し指みたいだ。しかもまだ生きている。
 つまり、切断されたというよりは、こうポロッとはずれてしまった、というようにね」

もっと調べてみたいから譲ってくれないか、という友人の申し出を断り、私はやはり警察に届けることにした。
本庁なら、何かしら手がかりもあるかもしれない。
しかしどこへ行き、誰に渡したらよいものだろう。
どうしたものかと困っていると、ポケットの中の人差し指が、くいっとある方向を示した。
他になすすべもないのでそちらへ向かうと、ある部屋の中から誰かが話している声が聞こえてきた。

「それでお前さんはあの組長を殺害しようとしたわけだな」
「ああ、ライフルでとなりのビルからな。いつもなら確実に仕留められる距離だった」
「それがどうして自首なんてしてきたんだ?」
「だから! 今回は撃つ直前になって急に人差し指が痒くなって!
 次の瞬間どっかへ行っちまったんだよ! これじゃあこの商売はできねえだろうが」
「これはいい。お前のような悪人にも、指の先ほどの良心があったというわけか」

まるで信じてない、という風に笑う声が聞こえる。
ふいに人差し指がトントン、と扉を叩いたので、中から開けられてしまった。
すると、その右手の人差し指は、私の右の頬を下にひっぱった。
驚く人たちを見ながら、私は仕方なくべえっと舌を出した。



▼・ω・▼。oO(書いた当時はケータイ普及率も1桁だった頃だったよたしか
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ある報告

わたしがどこで学んだかなんてことが、本当に重要なことなのかい?
・・・まあいい、あなたたちのインタビューに応じることは彼女から頼まれたことだし、
いかなる質問にも答える約束だ。


正確な日時は定かではないが、気がつくとわたしは薄暗い、生暖かい場所にいた。
居心地の良いところでね、ここのように腹が空いたり暑さ寒さを感じることもなかった。

わたしも始めは何もわからなかったんだ。
何しろそこにはわたし以外誰もおらず、他に何もなかったのだから。
ただどこからか声がしていてね、わたしはその声から多くを学んだのだ。
ああそう、たまに彼女の声も聞こえていたよ、随分近いところで。

そのうちにそこが窮屈になってきて・・・え? ああ、物理的に、だ。それでなんとか出てきたわけだ。
どうやって、か・・・もう無我夢中で、とにかくまぶしくて苦しくて、やたら疲れたことしか思い出せないな。


次に気がついた時はどこかの部屋にいた。
不快というほどではなかったが・・・初めのあの場所が快適すぎたのだろうな。
そのうち彼女が迎えに来たので、わたしは彼女とその夫の家に行ったというわけだ。

それまでにはわたしはだいぶ多くのことを理解していたが、言葉を発したことがなかった。
必要がなかったものだからね。
なんとか練習して、やっとここまで話せるようになったのはつい先日のことだよ。

第一声? もちろん覚えているとも。
感謝の気持ちを込めて、彼女を呼ぼうと決めていたからね。
とても喜んでくれていたよ、「ママ」と呼んだ時は・・・


『カリキュラム終了報告。
御子息は、生後4週間目のセッションにて、以上のことを述べました。
我が社の超早期英才教育プログラムにご満足いただけたでしょうか。
引き続き、延長なさる場合の料金は以下の通り・・・』



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嫉妬

許せないわ、あの女。最近やたらと貴方に近付いてくるあの女。
あの日、初めてあたしがここに来た日。貴方はあたしが世界一可愛いって言った。
なのに今貴方は、あの女に向かってそう言うのよ。

どうして? あたしたちはいつも一緒だった。毎日公園を散歩して、時にはあの海辺まで行ったわね。
貴方が楽しい時、あたしも楽しかった。
貴方が言うことなら、あたし何だってした。
あれを取って来い、これをやれ、こっちへ来い、ここで待ってろ…ううん、嫌だったわけじゃないわ。
貴方が喜ぶからしたかっただけよ。あたしはいつだって貴方の味方だったでしょう?

なのに最近は、そんなこともなくなった。そう、あの女がここに来てからよ。
あの女ときたら、ただ笑顔をふりまくだけで貴方や他のヒトの注意を引いて、それが駄目なら大声で泣くのよ。
貴方は、そんなあのコを抱き上げて、あたしに見せに来たこともあった。

それでも、貴方が好きよ。あの女が来てから、時間は短くなったけど、
貴方はちゃんと決まった時間に外へ連れて行ってくれるものね。
ふたりっきりでいられる場所へ…


母親が、坊やに紐を渡して言う。
「さあ、犬のお散歩に行く時間よ。ママはその間にあのコのおしめを換えておくからね。
 いつまでも妹をかまいたいのはわかるけど、あなたが飼いたいって言ったのよ…」



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整形

顔立ちの、あまり良いとはいえない方の女が、『美容整形』と書かれた看板のある建物の中に入っていった。
待合室で数分待った後名前を呼ばれ、診察室に入ると医者がひとり、中で座っていた。

「初診の方ですね。どういった顔をお望みですか」

「あの、噂で聞いたのですけど、他とは違う方法でやってくださるとか・・・」

「ああ、そちらの患者さんでしたか。ええ、うちではちょっと変わった手法を発見しましてね。
 一般の外科手術のように切ったりせずに、ある薬を使って顔を変えられるということもしています
 ・・・実はまだ非合法なんですが」

「それはそのう…どういうものなんでしょう」

「ほら、よく聞くでしょう。恋をすると女性は美しくなるって。
 あれはね、自分のことを愛してくれる人がいる、という意識が、その人を内面から綺麗にするからです」

「じゃあ、恋ができないほど美しくない人間は、ずっと綺麗になれないってことですか」
女性は感極まってぼろぼろと泣き出してしまった。

「ほらほら、感情的にならないで。だから、この薬ができたのです。
 この薬は、綺麗な『心』そのものを具現化するものなんですよ。
 清い心さえ持っていれば、顔立ちもよくなるという画期的な薬で、しかも一度使用すれば効果は消えません。ただ…」

「すばらしいわ、先生。今すぐわたしにその薬を使ってください。お金はいくらかかっても構いません」

「いえ、そのう…確かにこの薬は効きますよ、ただ、その…効きすぎるんですよ…」

医者はもごもごとつぶやいたが、女はなおも食い下がった。
「…わかりました、貴方なら大丈夫かもしれません。さあ、こちらの部屋へどうぞ」

こうして、女はその場で薬を投与してもらい、すぐさま効果は現れ、嬉々として帰っていった。


数日後…顔立ちの、かなり悪いといえる女が、またしても例の建物に入っていった。
驚いたことに、出された身分証は、数日前のあの女性と同じものである。
女が診察室に入ると、あの医者が困ったような顔で待っていた。

「やっぱりそうなってしまいましたか…」

「どうしてくれるのよ。あんたがおかしな薬を使ったからこんな風になってしまったじゃないの。 
 あれから綺麗になって早速恋人もできたのに、日に日に不細工になっていくわ」

「…貴女恋をしてから、色々悪いことも考えるようになったでしょう。
 言ったでしょう、あの薬は『心』を具現化するんだって。だからですよ」



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青い玉

その子は、とても不満げだった。
紺色の大きなシーツにガラス玉のようなものを何個も何個も作ってちりばめて遊んでいるのだが、
一番おきにいりの青い玉が汚れてきてしまったのだ。
最初のうちは、その青い玉も他のいくつかのと同じように、ただの石ころみたいだったけれど、
その子がそれに息を吹きかけた時から、玉の中で何か素敵なことが起こりだしたらしく、みるみるうちに宝石のようになった。

それなのに、この間から玉の様子がおかしい。小さな、嫌なものが玉の中にたくさん現れた時からだ。
前は、青い表面の奥にたくさんの緑色も見えたのに、今はどんどん汚い色に変わってゆく。周りの青も、ところどころはげてきた。

どうしよう。汚れきってしまう前に、自分で壊してしまおうかな。
青い玉の近くの、大きな真っ赤な玉にぶつけたら、すごく綺麗に砕けそうな気がする。

どきどきしながら、いつ地球を太陽にぶつけようか、神さまは考えるのでした。



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