イントロ


すべては昨日の放課後から始まりました。

いつもどおりの金曜日・・・学校から帰ってくると、スーツ姿の男の人たちが、家中のものに『差し押さえ』のシールを貼っていました。
玄関先で唖然としていると、そのうちの1人に声をかけられたのです。


「皆本シズカさんですね?あなたの親御さんが借金を残して蒸発されました。この家は現在我々が差し押さえております。」
「・・・はあ」


しばらく状況が理解できずにいると、男の人はパパの机に置いてあったという手紙を差し出しました。


   『ごめんねシズカ! パパのことは忘れて強く生きてね(笑)』


・・・ちょっ・・・パパ!?何考えてんのこれ!
ていうか、え・・・ほんとに!?あのパパが、借金!?
確かに見た目チャランポランだし一見アタマ軽そうだけど、その場のノリと強運だけで、世渡りだけは抜群にうまかったのに・・・
前も一度、ママのへそくりで内緒で買った株で大損だしたけど、 わたしが貸したおこづかいで万馬券当てて、バレる前にちゃんと元に戻してたし・・・
マサカ予告も無しに逃亡なんて・・・

・・・・・・やるかも、あの父なら・・・・・・ううん、でも・・・!

「・・・冗談、ですよねっ?」
「いえ」
「きっといたずらです。そういうのが大好きな人ですからっ。すみません、すぐにこんな悪趣味なマネやめるように伝えますねっ」


わたしは急いで携帯電話を操作しながら言いました。
でも、何度かけなおしても、返ってくる音声は『現在使われておりません』・・・電源が入っていないためかかりません、ではなく!
だんだん震えてくる手を、なんとか動かしてパパの会社にもかけてみたけれど、ずっと呼び出し音が鳴り続けるだけで誰も出ません。
他にパパと連絡を取れそうなところはないかメモリを探していると、その男の人は書類を差し出して言いました。


「会社の経営に失敗したんです。
そしてその場合の対処として、ご自宅を担保のひとつにされていました。
こちらが法的根拠を示す公式な書類です。申し訳ありませんが・・・今お父上が戻られたとしても、この書類は有効です。
つまり・・・冗談や悪ふざけなどではなく、ここはもうあなたのおうちではない、ということです」


『書類』は・・・難しい言葉がいっぱい書いてあってよくはわからなかったけれど、少なくともその人のただならぬ雰囲気が、冗談ではないことを物語っていました。 

でも・・・でもそしたら待ってよ、わたしは、どうしたらいいの?
ここが、わたしの家じゃなくなったんなら、わたしは、どこに帰ればいいの?

何が起きたのかを頭の中で整理していくうちに不安が増していき、震える手から書類の束が落ちました。
そしてその音にハッと我に返ると、そのまま、家を飛び出してきていたのです。



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