あるこんにゃくやのきおく

とある漫画の二次創作、あるキャラの過去を描いたものです。
その作品が何かを推測するのもネタのひとつになってます。

    
ふたり心の成長期はいつまでなんだろう。

いつまでもこどものままでいたかった。
大人になりたくなくて入った大学だったけれど、
アオイと出会った瞬間から、早く彼女に追いつきたくなった。
アオイと過ごしたあの時間のまま、世界が止まってしまえばよかったのに。








 
ひとり 卒業しても就職する気になれず、
冗談交じりで『アオイとの結婚資金』だなんて貯めた分で、
海外へ飛ぶことにした。
・・・彼女でいっぱいのあの街から、少しでも遠くへ逃げ出したかった。

彼女を忘れたかったわけじゃない。
ただ、思い出して、
そしてもう触れられないことを思い出して正気でいられるほど、大人でもなかった。








 
ドロンズ 少しでも、遠くへ。

あの悲しみから逃避するために
ブラジルからはじまり、ウルグアイを回ってからベネズエラ、コロンビアと廻った。
旅先で色々な人たちと出会い、そして別れても、
アオイとの別れ以上に心を動かされることなんてもう、何もなかった。

満点の星も、水平線に浮かぶ太陽も、広すぎる大地や壮大なジャングルも、
彼女と見ることができなければ、意味がなかったんだ。








 
個人的趣味 特にアテもない旅ではあったけど、
グァテマラのティカルは行っておこうと思った。
観光客が多いのは避けたかったので、現地の人たちと交渉しながら、
格安の穴場コースを案内してもらった。

それまでの俺は、もし神様なんてのが本当にいるのだとしたら、
この世界からアオイを奪い去ったことに対して少なからず憎んではいたけれど、
あの時、あの少年にガイドを頼んで、あの道を案内してもらったことは、
アオイか神様とやらのミチビキ、とかいうやつではないのかと、今更ながら思う。








 
キジムン? ティカル遺跡からの帰り道、ジャングルの途中に、それはいた。

最初、ガサリ・・・と音がして、猿か何か、小動物だと思って見上げた樹の枝に、
褐色の肌にぼろぼろの短パンを履いた、
2、3歳の幼児がいた。








 
説明用コマ 何度も目と頭を疑い、声も出せずに固まっていると、
ガイドの少年も俺の視線の先を見て、驚いたようだった。

こうしたジャングルでは、近隣の村人が迷い込んで出られなくなったり、
飛行機が不時着した際の乗客などが、捜索しても見つからない場合がある。
捜索そのものに時間がかかることや、
乗客自身が燃える機体から避難していたり、
爆発の衝撃で投げ出されたり、
もちろん自然の掟というやつで食い散らかされたりしてしまうらしい。

ただ時折、数日経過してから奇跡的に発見される場合もある。
母性本能とやらをくすぐられた野生動物の仕業だとか、
はたまた「ジャングルの精霊」に守られただとかいう話がついてまわるやつだ。

でもその日出会ったそれがどちらに属するのか、俺には判断がつきかねた。
迷子や捜索人、のわりには・・・野性味があふれすぎていたから。








 
ぬいぐるみ とにかくわけがわからなくて戸惑っていたけれど、
ふと、その子供の大きな瞳の視線の先が、
俺のリュックで揺れているものだということに気がついた。

派手な色の、小さな手作りのぬいぐるみ。


アオイが、さいごに くれたもの。








 
さる? 病床の上で俺のためにと作ってくれたそれは、それだけは、
どうしても置いていきたくなくて、リュックに縛っておいたのだ。
見てしまうと辛くなるから、あまり意識しないようにしていたその人形を、
その子供がじっと見ている。

俺はガイドの少年に一休みしようとつぶやいて、その場にリュックを下ろした。
その子供から、ぬいぐるみが陰になる位置に。
子供はすばやく別の枝に移動し、まじまじとぬいぐるみを見続けていた。








 
万国共通 無言のまま、俺はリュックから水のボトルとクラッカーを取り出し、
ガイドの少年と分け合った。


ぐうぅううぅうううううぅ・・・


一瞬猛獣のうなり声かと思うほどの大きな空腹のサインが樹上からして、
俺は思わずふきだしてしまった。








 
現地でマスター 視線を子供に移し、クラッカーを掲げ、
スペイン語で「食うか?」と声をかけてみた。

子供はわかったのかわかってないのか、表情は変えないままで
ぬいぐるみとクラッカー、そして俺の顔を順番に見ている。
「言葉がわからないんじゃ?」
とガイドの少年が言うので、
ポルトガル語、英語、フランス語、念のため日本語でも聞いてみた。
言葉には反応しなかったものの、
クラッカーを口に運ぶジェスチャーをした時に、動きがあった。








 
キジムン? 俺はしばらく考えてから、近くの大きめの葉っぱを取り、
その上にクラッカーを数枚置いて、リュックを背負った。
ぬいぐるみをあげるわけにはいかないが、助けが必要ならついてくるだろうし、
近所の子の(とてもそうは思えないが)散歩だとしたら
珍しい食べ物で満足するだろう。
仮に保護が必要だったとして、近くの村人か警察に連絡するのが先だ。


「ついてきてます」
ガイドの少年が小声でそう言った時、
俺はアオイのことを考えていた。


※原作に『アオイ』さんというキャラはいません。

その2


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