塞翁外伝


熱で意識朦朧としてるときに書き留めました。短いので暇つぶしにどぞ。
ペンケース  アイラブユウ


【ペンケース・表】

6歳のときに、パパがいなくなりました。

ある日突然、「パパにバイバイしなさい」とママに言われて、
でもそれからママのお仕事も忙しくなって、
あたしは、小学校から帰ったら買ってきたお弁当をチンして食べて、
一人でテレビを見ながら時間をつぶして、
ママが帰ってくるまでには寝てしまうという生活でした。


小学校5年生のとき、あるアニメが流行って、
そのキャラクターのノートやペンケースを持ってることがステータス、みたいな時期がありました。

あたしもそれがすごく欲しくて、でも買ってもらえなくて、
おこづかいを何ヶ月もかけて貯めてやっと買えるって時に、
文房具屋さんに向かう途中で交通事故に合ってしまいました。


2週間くらい入院しなくちゃいけなかったけど、久しぶりにママといっぱい過ごせたし、
事故の時になくしてしまったと思ってたお金が、
入院中になぜか例のペンケースに入って枕元に置いてあったりしたので、
神様っているかもしれないな、なんて考えたりもしました。

退院した頃にはクラスでの流行は終わってたんだけどね。



【ペンケース・裏】

6歳のときに、新しいお父さんがきた。

その前までいなかったから、
幼稚園の運動会の『パパの肩車リレー』にはお母さんと出て、なんだか寂しくて、
だからある日突然やってきたお父さんに、とまどいながらも喜んでいた。


お母さんは家にいっぱいいるようになって、
あたしが小学校から帰ったらご飯の準備をしてて、お父さんの帰りを待ちながら一緒にテレビを見たりして、
あたしに一人部屋をもらえるまでは、親子3人でお風呂に入ったり川の字で寝たりしていた。


小学校5年生のとき、
お母さんがどうしても休日に出かけなきゃいけない用事ができて、お父さんと二人で過ごすことになった。
外でバドミントンしたりして遊んでいたら急に雨が降ってきてびしょ濡れになったので、
久しぶりに一緒にお風呂に入った。

その日お父さんにされたことは、絶対誰にも言っちゃいけないと言われた。
すごく痛かったけど、もし誰かに話したらお母さんとも一緒にいられなくなって、
知らない場所に捨てられると教わって、
その日の夜は怖くて寝られなかった。

その頃学校ではあるアニメが流行っていて、
そのキャラクターのノートやペンケースを持ってることがステータス、みたいな時期があった。
お父さんがそのグッズをいっぱい買ってきて、お母さんはそれを見て「甘やかさないで」と笑っていたけど、
あたしはそれがあの時のことを黙ってたご褒美と言われたので、もらってもちっとも嬉しくなかった。
でも嬉しくなさそうにしていたらお母さんに怒られたので、イヤだったけど仲良しのふりをした。

そのうちお父さんは、お母さんがいても気付かれないように体に触ってくるようになった。
お母さんがお風呂に入ってる時間は大体そういう時間になった。

あたしはそのキャラクターを見るだけであの時のことを思い出して吐きそうになるので、
ある時どこかに捨ててこようと外を歩いてた。
途中、狭いけど車通りの多い道があって、

そうか、これにひかれちゃえばもう痛い思いや気持ち悪くなることもないなって、

フラフラと吸い込まれるように車道に出ていた。

でも目前に迫ってきていた車はあたしをよけて、反対側の歩道を歩いてた子を撥ねてしまっていた。
あたしをよけるために急ブレーキで減速していた分、その子はそれほどダメージはなかったようだけど、
その子が持っていたポーチが、あたしの方にまでふっ飛んできていた。

渡さなくちゃ、と思ってはいたけど、
自分のせいで事故が起きたことが怖くなってきて足がすくんでしまってる内に、
ドライバーはその子を病院に連れていってしまった。

なんとかその場は離れたけれど、ポーチをあの子に届けなくちゃ、という思いは強くあって、
家に持ち帰ってきてしまっていた。

お母さんがお風呂に入る時間になって、お父さんがあたしの部屋にきた時、
そのポーチを見て顔色が変わった。
それはどうしたのかと聞かれたので、とっさに「友達と交換した」と嘘をついた。
嘘ではあったけど、お父さんはそれ以上何も聞かず、あたしに触ることもなく部屋を出て行った。


なんとなくポーチの中をのぞいてみたらお金と小さなメモが入っていて、
そこに彼女が買いに行くつもりだったものが書いてあって、
その時あたしは神様っているかもしれないな、なんて考えたりもした。

ポーチに書いてあった名前を頼りに近所の病院を探した。
懺悔とゆうか、なんとなくそれを渡せば、自分は赦されるような気がしてたのだと思う。
その子は4件目の病院にいて、「学校の友達です」って言ったらすぐに病室を教えてくれた。
訪ねた時その子は寝ていたので、枕元にそっと、

『彼女が欲しがっていて、あたしが捨てたかったもの』を置いてきた。

病院を出た時の風が、とても心地よかった。



<ペンケース、おわり>





【アイラブユウ・表】

こんな風なお別れにはしたくなかった。
こうして筆をとってみると、何から書けばよいのか、何も書かない方がユウ君のためなのか、
迷ってしまうばかりで、これからのことも心がくじけてしまいそうです。

大学の入学式で出会ってから、ちょうど3年。
ユウ君もわたしも、まだぎこちないスーツで、キャンパスは何もかもが新鮮で、そしてキラキラした空気で溢れてた。

初めて声をかけられたときは、なれなれしくて、突然なんだコイツ、って思ったけど、
そのあと話をするうちに、その憎めない性格にどんどん惹かれていった。
1年生は必修科目が多いから、まだあの頃はちゃんと毎日講義に顔を出してたユウ君と会うのが、
日に日に楽しみになっていた。


そのうちユウ君はサークルに忙しくなって、学内で見かけてもめったに話しかけてくれなくなった。
隣を歩く女の子もしょっちゅうかわって、わたしはそのうちとんでもないことにでもなんないかと
いつも心配だったんだよ。


そんなある日ユウ君と研究室でふたりきりになったとき、
告白されて、すごく嬉しかった。
もちろん、わたしを利用してるんだってわかっていたけど、
わたしはとにかくユウ君のチカラになりたかった。どんなに汚いことをしてでも。

ユウ君の留年は、わたしが止めたんだよ。


そんなことがあってから、ユウ君はわたしの前ではしおらしくしてたけど、
まだいろんな女の子たちと遊んでたよね、もちろん知ってたよ。
それでも定期的にわたしを頼ってくるキミが、好きで好きでたまらなかった。


そしてユウ君は、いろんな人脈とコネを使って、来年卒業する。
キミの幸せを願いはするけど、わたしはここを出られない。
それどころか、キミのためにわたしがしてきたことが学校にバレたら、どこにもいられなくなる。
ならいっそ、ユウ君と出会ったこの場所で、この場所から飛び下りて、いっしょになろう。

ごめんねユウ君、痛いのは、一瞬だと思うから。



【アイラブユウ・裏】

はあ。そんな遺書があったんですか。
ああ、そうっスね、このユウって・・・俺のことでしょうね。
え?覚えてることったって、そんなにないですよ、一瞬だったし。
あの人に呼び出された講堂の裏庭で待ってたら、
野球部の暴投がおもっきり背中に当たったんですよ。
で「死ぬかと思った」とかどなりつけながら返球したんですね、俺。
やけに野球部員が叫んでたんで、んだよてめーらが悪ぃんだろが、って腹たてながら振り返ったら、
眼の前を黒い塊が落下してきて、赤黒いカケラがいくつか顔に飛び散って・・・
次気づいた時はこの病室でしたから。・・・気ぃ失ったらしーっスね、どうも。


へ?関係!?関係も何も・・・その遺書の内容についてっスか?
ぃゃ確かに俺、声かけましたよ入学式。だって先生だし。
そりゃ出席してりゃ顔も合わしますよね。
まだ教授なりたてだとかで妙におどおどしてたから、あんま気ぃはんなーって話しかけたりして、
確かに他の学生よりは仲良くはしてたと思いますよ。
告白ってか・・・まあ告白ですかね・・・「単位足りなくて親に帰って来いって言われてる」っていうのは。
まさかあんなに心配されて、補習やら追試やらの手続き、他の先生にまで頼んでくれるとは思わなかったし。
そこに金がからんでるかどーかなんて、俺は知りもしなかったし。
そのおカゲで教授たちが俺を『どこぞのエライさん』の繋がりがあるって勝手に勘違いして
単位上乗せしてくれてても、それは俺の知ったこっちゃない話じゃないスか。


タブらか・・・!?してなんていませんよ!
事情聴取ってそんな、勘弁してくださいよ刑事さん、
俺こんなオッサンと心中なんて、冗談でも笑えないですよ・・・


<アイラブユウ、おわり>





漫画にしづらいネタばかり頭をよぎるのはどうにかならんもんか



戻る


Copyright (c) since 2007 yunbymunch all rights reserved.
inserted by FC2 system