挨拶が済むと、ベンゾウさんが1冊のファイルと鍵束を手渡しながら言いました。 「全部屋のマスターキーと入寮者の管理用ファイルです。管理人室の合鍵はここにはないので、気をつけてくださいね。 それと、あなたのお部屋に業務内容をまとめたファイルもいくつかありますので、目を通して下さい。何かあった時の対応なども書かれています」 「はいっ」 「定期的に査察には来ますが、緊急に連絡が取りたい時には私の携帯にお願いします。寮生の皆さんからも、彼女に色々教えてあげてください。それでは」 ベンゾウさんはそう言うと、しばらく鳴っていた彼の携帯に出ながら、足早に帰って行きました。 お忙しそうな方みたいだし、あまりお手をわずらわせないようにがんばろう。 そう自分に言い聞かせていると、スネオさんがコホン、と咳払いをして言いました。 「えー、とりあえず今いるのは、むこうからメッド、リーニョ、ワン、キッド、ニコフ、そんでこのちんまいのがタケシ」 「ちんまいってなんだよ!」 「まぁ名前やキャラはそのうち覚えてくれればいいよ。特に出番ないし」 「はあ…(でばん?)」 「あと今ちょっといないけど、青いのとエロいのがいます。夕食時には全員集まるから、その時改めて」 「はい…」 とりあえず…この『特別寮』はその名の通り、ヒトクセもフタクセもありそうな個性的な人たちが集まっている、ということだけはよくわかりました。 何はともあれ、早く新しい日常に慣れておかなくちゃ。 さて、何から始めようかな。お夕飯の準備はもうちょっと後からでもいいとして・・・ と考えていると、スネオさんとタケシくんが言いました。 「まずは君の荷物を部屋に置きにいこうか。そしたらゆっくり寮を案内できる」 「あ・・・はい、お願いします」 「スネオはウソばっかつくからおれがしたげるよ!」 「また人聞きの悪いー。ウソなんかついたことないでしょ」 「おまえがこないだ『メガテン』って『ためしてガッテン』の略だってゆうからクラスではなしたら笑われたんだぞ!」 「信じてたんだそれ」 兄弟みたいに仲良くじゃれあってる2人を見ていたら、寮の生活がちょっと楽しみになってきました。 玄関を入ってすぐのところに『管理人室』のプレートがついた扉があり、ベンゾウさんから受け取った鍵束からひとつを探し出して、中に入りました。 ・・・前任の方がどういう方だったのかはわかりませんが、なんだか異様に・・・豪華、でした。 「あれー?すごいねこれ、昨日までラーメンくさかったのにね」 ラーメン臭・・・!?そうだったの!? それはまるでリゾートホテルみたいなきれいなお部屋でした。 大きな窓、広めのベッド、小さなテーブルと使いやすそうな勉強机・・・その机上に、学園への編入手続き完了の書類がありました。 ・・・理事長さん、改めてすごい方です・・・ とりあえずバッグを部屋に置くと、2人に案内してもらうことにしました。 「1階には今の管理人室と--こっちがさっきみんなで集まっていたリビングスペースで、そのすぐ横に食堂があってー」 「他にあの奥にリネン室とか倉庫、あと大浴場があるよ」 「大浴場!?」 「ここなんか温泉出るらしいんだよ。で、前の理事長が作っちゃったんだって。気持ちいいよ」 ここ、一応学生寮・・・でしたよね・・・・・・ なんだか想像を絶するぜいたくな造りなのに、当然の用に話す2人・・・ちょっとびっくりです。 玄関ホールから伸びた階段を上がり、2階へ。 「寮生は2階と3階に、2人一部屋で割り振られてるんだ」 「おれスネオといっしょなんだぜー?」 「協調性と思いやりの教育、とか言ってね。まあ、タケシがおねしょしたりするのをみんなに黙っているのは辛いけどね」 「言うなよ!じゃない、してないよ!!」 いくつかのぞかせてもらったけれど、相部屋といってもひとつが広いお部屋なので、皆さん快適に過ごしているようでした。 それぞれの部屋にテレビは置いてはいけない規則ということで、みんな基本的にはあのリビングスペースの大画面テレビを観に、普段はあのお部屋にいるのだそうです。 他にも寮の暗黙のルールみたいなお話を聞きながら階段を3階に向かって上がっているとき、ふと、スネオさんが言いました。 「さっきの・・・ノビタのことだけど」 「のびた・・・寮長さん、ですか?」 「気を悪くしたらごめんね、いつもはあんなこと言うタイプじゃないんだけど」 「なー?アイツさっきなんか変だったよなー」 2人とも、気にしてくれてたんだ・・・さっきも、結果的に2人に助けてもらったんだよね。 「気にしてませんよー!確かに、管理人なんて責任あるお仕事、こんな高校生が勤めてたら誰だって心配になりますよね」 「ん、いや・・・たぶん彼が気にしたのはそこじゃ・・・」 途中で言葉が途切れたので、スネオさんの視線の先にわたしも目を向けました。 階段を上りきった先には、白い肌に青い髪の、ものすごくきれいな人が立っていたのです。 |