大きくスペースを取った玄関ホール、吹き抜けの高い天井。
壁に絵画、高そうな花瓶に飾られた花が並び、柱や梁までいかにも質のよさそうな、けれど派手すぎない、落ち着いた雰囲気が漂っていました。
ほぅ・・・っとためいきがこぼれるほどの素敵な空間にみとれていると、 ホールを抜けた先にあるドアに向かってベンゾウさんが歩きだしたので、あわててついていきました。
彼がドアを開けると・・・

「・・・だっ、男子寮、なんですかっ!?」
「はい」

広々としたリビングスペースには、10人ほどの学生がいました。学年はバラバラのようだったけれど、女子生徒は見当たりません。

「この方が、本日よりここの管理人となる皆本シズカさんだ。あまり迷惑をかけないよーに」
「ちょ、ちょっと待ってください!男子寮とは聞いてません・・・!」
「管理業務は女子寮と同じです。それに空きはここしかありませんので」
「でもっ・・・」
「おやめになりますか?」

えぇ〜・・・と残念そうな声、とりあえずやってみなよーといった発言が群がってきて。
・・・確かに好条件ではあるけど・・・男子・・・男子寮でしょ!?
こんなのパパが知ったら・・・

「よしてもらったら?」

部屋の奥のソファの方から、静かな、でも妙に力強い声がかかると、みんな一斉にそちらを見ました。
ベンゾウさんが無表情のまま尋ねました。

「どういう意味かな、野火寮長」

寮長と呼ばれたその人は、メガネの奥から冷ややかな視線をこちらに返しつつ答えました。

「そのままの意味ですよ、こんな女のコに任せるには大変な仕事だし、本人も不服のようだし」
「わたしはっそんな・・・」

不服ってわけじゃない、と言おうとしたけれど、寮長さんがベンゾウさんに厳しい視線を送りながら、遮るように続けて言いました。

「彼女にここが男子寮だと告げなかったのには何か意図が?」
「特に何も。ウッカリしていました」

無表情のまま答えたベンゾウさんに呆れたように、寮長さんはため息をつきました。

「ウッカリ、ね。まぁいいけど、ひとまずあなたに強制力はないんでしょ?」
「あのっ・・・わたし、やります!やれますっ!」

思わず大きな声を出してしまった。
だって・・・せっかく理事長さんがとりはからってくれたのに、やっぱり断るなんてできないよ。
それに、何よりこの人、寮長だかなんだか知らないけど、わたしのことなのに勝手に話を進めるんだもの。
やれるかやれないかは、やってみなきゃわからないじゃない。

部屋中が「どうするんだ?」という空気に包まれた時、寮生の中から声がしました。

「本人のやる気があるなら決まりじゃない、理事長の決定に学生がとやかく言えるものでもないし、ねえ?」

長い前髪を気取ったようにかきあげながら、出てきたのは外国の王子様みたいな人でした。
彼は優雅な仕草で腕をわたしの肩に回しながら、少しキザに言いました。

「やぁ美しいマドモアゼル、僕はスネオ、気軽にスネちゃまって呼んでおくれよ」

さらにその後ろから小学生くらいの男の子が出てきて、寮長さんへ駆け寄りました。

「いいじゃんかノビター。みんなも気に入ったみたいだしさー!なんならおれもちゃんとお手伝いするからー!」
「・・・タケシがキッチンに立つのはお手伝いとは言わないよ」
「なっ・・・ノビタのくせになまいきだぞ!」

ともあれ、寮長さん以外のその場の全員の意向により、なんとか就任ということになったのです。
寮長さんはわたしとベンゾウさんを一瞥すると、ため息をつきながら手元の本に目を移していました。
彼にしがみついていた男の子もこちらに戻ってきたので、わたしは皆さんのお顔を見渡してから「よろしくおねがいします」と頭を下げました。




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