「なーいー!!」

その日の朝は、タケシくんの悲痛な叫びがこだましていました。
いつもどおりに朝食の準備をしていると、珍しく全員そろって降りてきたのです。
タケシくんが今にも泣きそうな顔で慌てふためいていて、彼らは口々に言い合っているようでした。

「うるせーな!言ってる暇ありゃ探しゃいいだろ!」
「探したけどないんだよ!スネオほんとに隠してないよなー?」
「隠すメリットなにもないでしょ。むしろ今はその叫び声をやますためなら努力は惜しまないよ・・・」
「おはようございます。一体、何がないんですか?」
「あ!シズカ!おれの絵見なかった!?」

話を聞くと、タケシくんの今日提出の課題が見当たらないというのです。
昨日の夕方、庭で描いていたのをワンさんやリーニョさんが目撃しているため、学校への置き忘れではないようですが・・・

「じゃあカバンの中にしまっちゃったとか」
「なかった。スネオのカバンにも入ってなかった」
「当たり前でしょ。早朝から叩き起こされて、僕らの部屋はしらみつぶしに探索しました。結果、ありません」
「リーニョたちの部屋行った後3階もチェックしたけどどこにもなくて、後は1階しか考えらんないんだよ」
「と言っても・・・リビングにそれらしきものは・・・」

リビングは夜と朝、朝食の準備の前にパパッと掃除しているため、何かあればわたしが気付くはずです。
ソファの下や棚のすき間をのぞきこむタケシくんをよそに、他のみんなは疲れたようにキッチンの席に腰を下ろしていました。

「もー諦めて先生に怒られちゃえよ」
「だってせっかく一生けん命かいたのに」
「あー悪ぃ、そういや夜中に小腹がすいて食ったわ俺」
「うそつけ!なーシズカぁー捨ててないよな?これくらいの画用紙ー」
「ごめんなさい、見てないです・・・」

一緒に探そうとしたところをみなさんに止められ、わたしはとりあえず朝食の用意をしていました。
1階で他にタケシくんが置き忘れそうなところは・・・と考えていると、みんなが口々に言いました。

「ねぇメッド〜、カードで探せないのー?」
「できないことはないが、非常にめんどくさい」
「できんのかよ!」
「頼むよ、これ以上アイツのキンキン声でわめかれたら俺頭痛が痛い」

メッドさんはお茶をもう一口飲むと、どこからともなくカードの束をとりだしました。
それから、キッチンを出てタケシくんにカードを切らせると、リビングテーブルの上に置き、その上に手をかざしました。
何をしてるんだろう・・・?
と、思った瞬間、カードの山が噴水のように空中に飛び出し始めたのです!

「きゃあああ!?」
「すっげーな!?どーなってんだー!」
「あー確かにこれはめんどくさそうだな、片付けが」
「んなのタケシにやらせりゃいーじゃねーか」

噴水が止むと、不思議なことに床に落ちたカードは1枚を残してすべて裏向きに落ちていました。
メッドさんは、表を向けて落ちた1枚を見ると、少し考えてからタケシくんに言いました。

「・・・リネン室は見たか?」
「・・・・・・あ!」

タケシくんは一言そう叫ぶと、猛然とリビングを飛び出して行きました。
大きな声で「絵の具はやくかわかそうとしたんだったー!」というドップラー現象を残しながら。
メッドさんがカードを集め終わった頃、手に画用紙を持って、タケシくんが戻ってくると、やれやれという空気が流れました。

「シズカさん、お茶、もらえますか」
「あ、はい!・・・すごいですね、あんな不思議なことができちゃうなんて」
「・・・私には、あなたの腕の方がよっぽど不思議だ。・・・同じ茶葉なのに、シズカさんが淹れるとどうしてこんなにおいしいんだろう」
「えっ、は・・・」
「おいおいメッド、俺のシズカを朝っぱらからいきなり口説くなよ」
「ん?口説いたつもりはなかったんだが」
「つーかシズカちゃんはお前のもんじゃねー」

賑やかに、ようやく普段通りの朝が始まりました。
少し違うのは、手を動かしながらも、わたしの頭の中では、さっきのメッドさんの占いの様子が何度も繰り返されていること。

占い、かあ・・・
リーニョくんの試合の日も「珍しいものが見れる」って当てていたし、メッドさんのチカラって『ほんもの』なんだろうなあ。

 『カードで探せないの?』

そう、か。
『探しもの』をカードで占うことができるんなら、もしかして・・・?


戻る←      →進む

どらぶる トップに戻る
Copyright (c) since 2007  yunbymunch all rights reserved. inserted by FC2 system