他校とのサッカーの親善試合にリーニョくんが出るというので、みんなで応援しに行こうと提案しました。
早朝からトレーニングへ出た彼を見送った後、出かける準備をしていると、ドラえもんさんとノビタさんが下りてきました。
ドラえもんさんの近づきがたい雰囲気はあいかわらずでしたが、日が経つうちにようやくこの2人にも慣れてきたところです。

「これお弁当?すごい量だね」
「リーニョくんの分がなくなったら大変ですから」
「ああ、みんなで応援しに行くって言ってたね。タケシとニコフは迷子になりやすいから、気をつけて」
「え、お2人は行かないんですか?」
「まあ・・・結果がわかりきった試合には興味ないし」

2人のコーヒーを注いでいると、他のみんなも下りてきました。
お弁当を見てはしゃぐタケシくんたちがトーストやシリアルの簡単な朝ごはんをとる間、わたしはノビタさんに聞いてみました。

「あの、ほんとに行かないんですか?というか、結果はわかりきってるって・・・?」
「あいつのいるチームがサッカーで負けることはまずあり得ない」
「ああ見えて天才だしなあ」
「仮にキーパーやっててもハットトリック決めちゃうレベルだよね」
「みなさんそう思ってるんですか?負けるはずないから面白くないって」
「まあね。でも今日はシズカちゃんが応援するって張り切ってたから、またゴールトゥゴールとかやらかすかもなーって、おもしろそうだから観に行くの」

なんだかやっぱりおかしな人たち。
天賦の才能がある人って、こういうものなのかしら・・・

かなりの量になった荷物は力持ちのエルマタさんとキッドさんが分けて持ち、わたしがタケシくんとニコフくんの手をつないだ後ろに、スネオさんとワンさん、メッドさんがついて出発しました。

「メッドがこういうのついてくんの珍しいな」
「おお、そういやそうだな。何、なんか出た?」
「・・・『出た』ってなんのことですか?」

キッドさんの質問に、メッドさんは微笑で返します。
それを見てきょとんとしているわたしに、スネオさんが答えてくれました。

「メッドの占いはよく当たるんだ。当たり過ぎて怖いから、滅多に占わないんだけど」
「なんか出たんだろー!教えろよ」
「・・・昨夜のリーニョがいつもに増して興奮気味だったのでつい、ね。今日は珍しいモノが見られますよ」

メッドさんはそれだけ言って、また穏やかに微笑んだのでした。

寮から徒歩で20分ほど、学園内の試合会場に到着すると、前方の席につきました。
フィールド内の選手たちがアップをしているのがよく見えます。
リーニョくんはチームメイト数人とパス回しをしていて、わたしたちに気づくとぶんぶんと両腕を振りました。

「試合は何時から?」
「1時からって言ってました」
「1時ぃ?メシ食ってからでよかったんじゃねぇか」
「だから、みんなでお昼を食べながらリーニョくんを盛り上げて、それで試合に臨んでもらうんです」
「あいつなら1人で勝手に盛り上がれるよ」

練習が終わってリーニョくんがこちらへやってくると、みんなでお弁当を広げました。
玉子やツナのサンドイッチの他に、自分で好きなものをはさめるように具材を分けておき、その他にもサラダやチキン、スコッチエッグなどを用意しました。
目をきらきらさせてハシャぎながら、みんな手を伸ばします。
予想以上に汚しそうなので、予備のタオルを出しながら声をかけました。

「いっぱい食べてくださいねー」
「すごいねー!ピクニックみたーい」
「うわっリーニョ!?」
「お前、何泣いてんだよ!」

え?と振り返ると、リーニョくんがいつもどおりの笑顔のまま、ボロボロと大粒の涙をこぼしているのです。
みんなが唖然とする中、リーニョくん自身も驚いたように答えました。

「あれー?ほんとだ、ボク泣いてるー!」
「ないてるーじゃないですよリーニョ!どこか痛めたんじゃないですか?」
「どうした?嫌いなもんでもあったか?」
「ちがうよ!ちがうの、なんだー?これかな?」
「あ、それ・・・っ」

そう言ってリーニョくんの開けたお弁当箱の中身は、少しでも彼の助勢になれればと作ってみた、彼の国の郷土料理でした。
サッカーで有名な彼の国では、試合前に食べる選手もいるというので用意してみたのです。

「これだぁ!このにおいでなみだでたの」
「何?黒豆に・・・これ、豚の足!?」
「フェイジョアーダっていうんです」
「たべていいの!?」
「もちろん!でも、泣いてたのは大丈夫ですか?」
「これねぇ、これ、なんていうんだっけ、えっと・・・なやましかったの!」
「はあ?」

みんなが理解不能、という表情で彼を見つめていましたが、リーニョくんは涙を流したまま、フェイジョアーダを頬張りました。
メッドさんがお茶をすする音で我に帰ったように、エルマタさんが尋ねました。

「あー・・・リーニョ?どういうことだ?」
「何かおめー、悩み事でもあんのか?」
「ないよ!」
「即答だよ・・・とりあえず涙と鼻水を拭こうよ!」

スネオさんにタオルで顔をゴシゴシと拭われるにまかせながら、リーニョくんは続けました。

「あのねぇ、これお母さんのフェイジョアーダとおんなじなの!」
「・・・それが、『悩ましい』の?」
「え・・・っと、わたしが何か失敗したんでしょうか・・・」
「シズカさんのせいではない。リーニョが単語を思い出せていないだけだ。彼はおそらく『なつかしい』と言いたいのです」
「それー!すごーいメッド、なんでわかったの!?」

感情表現が独特なリーニョくんには、時々通訳が必要になるとはいえ、突然の涙に驚くこともなく対応したメッドさんは、そのまま何事もなかったようにお茶をすすりました。
エルマタさんたちが呆れたような、拍子抜けしたような顔をして言いました。

「・・・んだよ、びっくりさせんじゃねーよ!」
「なつかしいぐらいで泣いてんなよ!てゆうかひとりじめすんなぁっ」
「あーっおれも食べたいー!」
「わたしも是非」

みんなでつつくうちに、あっという間になくなってしまいました。
気に入ってもらえたみたいでほっとしていると、ワンさんが感心したように言いました。

「こんな料理よく知ってましたね」
「そうだよーどうやって調べたのー?」
「それがですね・・・」
「やぁ、ここにいたのか」

突然、背後から声をかけられ、みんな一斉にそちらに目をやりました。
立っていたのは、理事長さんとベンゾウさんです。

「やあニーニョ君、今日はがんばってくれ」
「理事長、『リーニョ』です」
「まあそれはともかく。早速作ってみたようだね。ご相伴に与かろうとやってきたのに」

理事長さんは、リーニョくんが持っている空っぽのお弁当箱を指しながら、残念そうにため息をつきました。
「あ・・・っ、すいません!別に分けておけばよかったですね・・・」
「シズカちゃん、どういうこと?」
「リーニョくんを応援しにくること、ベンゾウさんに伝えてあったんです。そしたら、理事長さんがこのメニューのこと教えてくださったんですよ」
「へえ・・・」
「まあなくなったならしようがない。ところで主催席で観ないか?ここより間近で見られるんだが」
「えっ、でも・・・」
「『彼』について、知らせておきたいこともある」

その言葉に、わたしはハッと息をのみました。
わたしを学園に引き取ってくれてからも、理事長さんがパパの行方を調べていることは、ベンゾウさんから聞いていました。
もちろん債権者として当然のことなのでしょうが、一番知りたいのはわたしだろうと、何かわかり次第すぐに知らせるとおっしゃってくれていたのです。
聞きたい。
でも、せっかくみんなで応援しにきたのに・・・

「行っておいでよ、シズカちゃん」
「ああ、オレたちは何度も観てるけど、リーニョの技術は近くで観る方が絶対いいぜ」
「ほらタケシ、そんなしがみついてたらシズカちゃん行きづらいだろ」
「だって!」

はいはい、となだめながらスネオさんがタケシくんをひきはがしました。
ちょっと残念だけど・・・でもやっぱり少しでもパパのことが知りたい。
そう考え、わたしは理事長さんたちについてゆくことにしました。



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