学園の居住エリアには、日々のお惣菜から超一流の食材まで一通り揃う大型スーパーがあります。
学生や教員、その家族はもちろん、隣の県から足を運ぶお客さんもいるそうです。
まだ早い時間のはずなのに、結構なにぎわいでした。

「お米や卵はむこうの業務用コーナーでまとめ買いするとしてー・・・お昼は何にしましょうか」
「シズカちゃんは何が得意なの?和食とか、フレンチとか・・・」
「ワンさんみたいな本格的なのはさすがに無理ですけど、レシピがあるなら一応形にはできますよ」

スネオさんがカートを押してくれて、そこへキッドさんとニコフくんが次々と好きなものを入れていきます。
食費や雑費はベンゾウさんから渡されていた管理用カードを使うのでひとまず支払いの心配はありません。
タケシくんがちょっと離れたコーナーから嬉しそうに駆け戻ってくるのを見ながら、スネオさんがうっとりしたようにつぶやきました。

「こうしていると・・・まるで夫婦のようだね」
「あはは、ほんとの夫婦はめったに一緒に買い物なんてしないですよー。タケシくん!走ったら危ないよ!ニコフくんお菓子ばっかりじゃない!もうー」
「シズカ!シチュー!赤いやつ!作れるか?」
「赤いシチュー?・・・トマトベースかな?」
「わかんないけど、ちょっとからいやつ!」

赤くて、ちょっと辛いって・・・トウガラシ風味かしら。
でも確か、ニコフくんは辛いものが全然ダメだって聞いたけど。

「スネオさん、前の管理人さんてレシピとか残していませんでした?」
「前って、小池さんのこと?料理なんてほぼしてなかったよ。そうだよねえキッド?」
「ああ。ラーメン専門とか言ってなー、確かにラーメンだけはうまかったけど。普段はもっぱらケータリングだったよ」
「ケータリングって・・・あの、レストランとかのシェフが出張して作ってくれたりとかっていう・・・?」
「基本は弁当みたくなった出前形式のやつな。スネオあれ嫌がってたよなー。ここの店舗内でそのテのサービスしてるからさ、日によって店だけ変えて」
「でもやっぱりちょっと味気ない時は、ワンが手を加えてくれたりとかしてたんだけど」
「あいつ味付け全部中華にしちゃうんだよなー!」

スネオさんとキッドさんが「なんのメニューの時が最悪だったか」の話で盛り上がっているのを見ながら、わたしは少しの憤りと、大きな責任感を感じていました。

・・・その小池さんは、『管理人』というからには、彼らの生活や食事の管理もするべきだとは思わなかったのかしら。
ケータリングそのものが悪いとは思わないけど、育ち盛りの男の子たちにとっては栄養価や量的に物足りない日もあったと思う。
そういえば、理事長さんが『管理人の空き』を提案してくれた時、「家事ができる」ことを強調していた。
きっと、わたしに彼らの栄養管理も任せたいと、そういうことだったんだ・・・!

色々なことが重なって、わたしが管理人なんてできるのかと正直不安も感じていました。
でもそういうことであればとことん腕をふるおうと、彼らの生活をしっかりサポートしようと、気持ちが高揚してきました。

「もう、みなさんの好きなもの、どんどん言っちゃってください!毎日腕をふるいますから!」
「ええっ?そうだなあ」
「オレはケチャップとマスタードさえあれば文句ないぜ!」
「キッド、それは失礼だって・・・」

こんな風に誰かとお話したりメニューを考えたりしながらお買い物なんて、ずっとしていなかった。
パパと生活してる時も寂しいなんて思ったことなかったけど・・・
なんだろう、こうしてみんなと一緒に過ごすのって、なんだかすごく、心地いいなあ・・・。

たっぷりカート2台分の食材をみんなで分担して持ち、いろいろおしゃべりしながら帰りました。
寮に戻るとちょうどエルマタさんが階下に降りてきて、ワンさんとリーニョくんも朝のトレーニングを終えたところでした。

「おかえり!なにかってきたんだ!?キッドそれ何たべてんだ!?」
「よぉ、荷物運ぶよ。準備てつだおうか?」
「ありがとう、でもお昼までまだ時間もあるし、先にお洗濯しちゃおうと思ってるんです。みなさん洗い物があったら、出してくださいね」
「みんな自分らの分は自分でやるよ?ここの洗濯機、乾燥機付きだし」
「ばらばらに洗うのは不経済ですよ、せっかく一緒に住んでるのに」

それに、こんなにいいお天気に乾燥機だなんてもったいない。
リビングのソファクッションも陰干ししとこう。

リネン室で新しいシーツやピロウケースを出していると、そこへノビタさんが洗濯物の入ったカゴを持ってやってきました。

「あっ、わざわざすいません!寮長さんたちのお部屋には、回収に伺おうと思ってたんですけどっあの」
「いいんだ、ちょうど洗濯しようと思ってたところだったし。無理に全部自分でやろうとしなくてもいいよ。 というよりむしろ、みんな積極的に君の手伝いをしようとしてて、いい傾向だと思うから」
「はい・・・寮長さんて、そんなところまで考えてるんですね。なんだか、みんなのお父さん、みたい」
「どら息子ばっかりだ」

そう言うと微かに笑みをこぼしました。すっかり最初のとげとげしさは消えています。

「・・・今朝は、ごめんね。その、気を悪くさせたみたいで」
「そんな!わたしこそっ、なんだか偉そうなこと言ってしまって」
「正直ちょっと驚いた。・・・他の連中はああいうこと言わないから気にしてなかったんだけど・・・気づかせてくれて、ありがとう」

少し照れながらお礼を言われて、わたしもなんだかきはずかしくなり、妙な空気をかき消すように慌てて言いました。

「ど、ドラえもんさんはっ、大丈夫でしたかっ?」
「ああ・・・あの後も結構長いことハマってたけど・・・まぁ大丈夫だよ。他の連中にしてもそうだけど、君がいると、どうやらいい影響があるみたいだ」
「影・・・響?」
「特にドラえもんにね。その・・・僕以外の人と、もっと接した方がいいんだ、彼は。これからもあんな風に話しかけてくれると助かる」
「はあ・・・」

相変わらずよく意味はわからなかったけれど、とにかくわたしがここで管理人を続けることへの不満は解消されたみたい。

よかった。わたしは、ここにいていいんだ。
男子だけの寮の管理人なんて、一時はどうなることかと思ったけれど、わたしも・・・ここでみんなと過ごしている間は、パパたちのことについて悪い想像を浮かべたり、寂しさを感じたりすることもないもの。

ノビタさんに言われるまでもなく、もっともっとみんなに話しかけて、よく知って、近付きたいな。
今はこの人たちが、わたしの大切な家族なんだから。


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