音は、上の階からしたようでした。
わたしはびっくりして思わず天井を見上げましたが、男の子たちは「やれやれ」という表情のまま、ため息をついたりしていました。

「なんですか今の!?」
「・・・さっきみんなを紹介したとき話した、『青いのとエロいの』のエロい方だよ」
「エルマタっていうんだけどね」
「ていうかもうエロ股って覚えとけばいい」
「シズカさんを驚かせないよう、一旦隔離してたんです」
「えっ・・・エルマタさん?」

なんだかひどい言われようで驚きました。
みんな仲良しなんだと思ってたのに・・・
ドタドターッと階段を降りる足音がしました。フラフラしているのか、壁にぶつかりながら近づいているようです。

「ドラえもん、手加減したの?」
「象を丸一日眠らせる麻酔が手加減というならそうなるね」
「えぇ!?ちょ、ちょっと待ってください!みなさん仲間なんでしょう?」
「シズカちゃんのためを思ってしたことだよ」
「なんですかそれ!どんな言い訳をしても、いじめはダメです!名前でからかうなんてもっての他です!」

とりあえず様子を見に行こうと思い、席を立った時でした。
バタン!とキッチンのドアが開き、その入り口に背の高い青年が立っています。
彼は肩で息をしつつ、ぐるりっとみんなを見渡してわたしに気づきました。
よろめきながらもこちらに近づいてきたので思わず駆け寄ると、その人はフラフラとわたしに倒れかかりました。

「だっ・・・だいじょうぶですか?」

わたし1人で支えるには体格差がありすぎて、その場にいっしょに座りこむ形になりました。
ソファに寝かせるのを誰かに手伝ってもらおうと顔を上げた時、ノビタさんが言いました。

「何度も忠告するより実際被害に合う方が身にしみるだろうと思ってのことだから悪く思わないでくれ」
「正当化しようとしてもダメです!」
「いや、君の話。・・・その、いま君、スリーサイズ、測られてるよ」
「は・・・?」
「エルマタ、いい加減に演技はやめて早く席に着け」

ふと気づくと、彼の手はいつの間にかわたしのおシリの下にあり、顔はわたしの胸にうずめられていました。
・・・スリーサイズ・・・?

突然エルマタさんは元気に立ち上がりました。

「上からB73、W54、H78!Aカップだが成長性はトリプルA!カオとニオイを加味して・・・総合的には95てん!」

それだけ言うと、彼は満足そうに着席しました。
その隣席にいたワンさんが、彼の後頭部をはたくのをあっけに取られながら見ていると、スネオさんの手が差し出されました。

「ごめんね、僕は止めたんだけど。犬にでも咬まれたと思って早く忘れちゃいなね」
「えと、あの・・・」
「一度こんな目に遭ったら、アイツと2人きりになる危険性がわかったでしょう?」
「こらスネオ、どーゆう意味だよ!お前だって女のコ見たら近寄るだろ!」
「ぼくは挨拶代わりにセクハラしたりしないよ」

わたしは「ああ、やっぱり今のはセクハラだったのか」と呆然としたまま、スネオさんに引かれたイスにストン、と腰を下ろしました。
タケシくんが「よしよし」と言いながら頭をなでてくれても、いまいちどういうリアクションを取ればいいのかわかりませんでした。
エルマタさんはグラスの水を一気に飲み干してから、わたしへさわやかな笑顔を向けました・・・・何事もなかったかのように。

「驚かせてごめんねー!魅力的な女性に触れるのは俺の国では普通の挨拶なんだ」
「ここは日本だ」
「サイズ測るのはただの趣味だろ」
「ていうかエルマタもう麻酔切れたのかよ」
「あ、麻酔だったんだ。いやものすごい眠かったんだけど、ひたすら『女のコが来る!』って自分に言い聞かせてたらなんとかさっき体が動いて」
「おまえって時々すごいな」

・・・あ、ほんとにいじめとかじゃないんだ・・・じゃあ、そこはいいか・・・
セクハラっていうか・・・挨拶って思ってたわけだし、しょうがない、んだよね?

「嫌がるコに無理強いはしないから安心してよ!まーまずはお互いを知るために添い寝から始めようか?」
「さ、じゃあ全員そろったことだし始めっかー!」

ワンさんの一撃をエルマタさんが受けたところで、もう一度キッドさんが仕切りなおしました。

「シズカちゃんの管理人就任を祝してー」
「かんぱーい!」

タケシくん、スネオさん、エルマタさん、ワンさん、リーニョくん、ニコフくん、キッドさん、メッドさん、そして寮長のノビタさんと・・・ドラえもんさん。
個性的な10人の男の子たちとの生活が、こうして始まったのです。


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